泣きながら俺の首を絞める男がいる。こっちはただでさえ喉が潰されて苦しいのに涙まで垂らされたら不快このうえない。振りほどいて今すぐにでも新鮮な空気で肺をいっぱいにしたいけど、それよりも先にこのバカ野郎の涙を止めてやりたいと思う俺こそが本当のバカ野郎なんだろう。(笑いたければ笑え!)十分前より心なしか白くなった腕をのばして、いまだ理由もわからず泣きじゃくる男の涙を拭えば驚いたような視線とぶつかった。いつもより掠れてハスキーになった声で泣くなと言えば、ぼたぼたと雨のような涙が降ってくる。(ああ、忌々しい!)増え続ける涙と比例して少しずつ手の力が強くなれば意識にどんどん霞がかかる。視界もだんだんぼやけてきて目の前の男の顔も見えなくなってのばした手もベッドに落ちて、それでも降り止まぬ涙を頬に感じて。不快でしかないソレすら首元に感じる温もりと相俟えば完全に暗闇と化した世界から、目の前にいるはずである男から伝えられる唯一の情報だと思えば愛おしく感じられた。意識が途切れる直前に告げた最初で最後の愛の言葉は、空気を震わせ見事目の前のバカ野郎に届いただろうか。