3ヶ月付き合った女に振られた晩、鳴ったチャイムに反応してドアを開けるとそこには首に太い縄を巻きつけた、自称心の友が立っていた。無駄に容姿がいいくせに、その性格から仲間内でも一歩引いた目で見られているヤツは、気の抜けた笑顔で「一緒に死んでくれる人を探しています」と言い、断る暇もなくドアをこじ開け無理矢理部屋の中に侵入してきた。今日は厄日か仏滅かと鬱になる俺を軽く無視し、再度ヤツは「一緒に死んでくれる人を探しています」と声高らかに言い放った。その目はまばたき一つしないで俺を凝視、明らかに心中相手にロックオンしているようだった。果たしてヤツが何を考えているかなんてわからないしわかりたくもないが、ここは丁重にお断りしなければ後々めんどくさいことになるだろう。別にそこまで生に執着しているわけじゃないけど俺はホモじゃないし、死ぬならグラマーで素敵なお姉さんとがいい。そう思い口を開きかけた時、ヤツは全体重を預け俺を押し倒してきた。馬乗りになって鼻歌なんて歌いながら自分の首に巻きついていた太い縄を少しほどいて、実に楽しそうにヤツは俺の首にも縄を巻きつける。二重三重と俺の首に巻きついたヤツと共有の縄を見て不覚にも冬の恋人達を連想してしまった。(長めのマフラーを二人で巻くあれだな)それにしても、チビでひょろいヤツのことなんか本気で抵抗すれば振り払えるのに、なんで俺はただ見ているだけなんだろう。このまま放っておいたら本当に俺はヤツと心中することになるかもしれないのに。もしかしたら自分が思ってる以上にあの女に振られたことがショックだったんだろうか。いや、もしかしたら押し倒された時に頭を打ったのが原因だろうか。いやいや、もしかしたら俺は案外ヤツのことが嫌いじゃなかったのかもしれない。あーもしかしたらヤツなんかよりよっぽど俺の方が変わり者なのかもしれないなぁ、なんて考えながらふとヤツを見ると今まで見せたことのないような満面の笑みを浮かべて、「先にいっててね、すぐにオレもいくから」と火サスばりの台詞を吐いて縄を思い切り引っ張った。今さらながらヤツが本気だったことを知ったけどもうどうでもいい気がする。きっと翌朝の新聞には"ホモカップル世を儚んで心中か!!"なんて見出しで大きく報道されていることだろう。まぁひとつ言わせてもらえるならばヤツはどうだか知らないが、とりあえず俺はホモじゃない。健全なヘテロタイプだ、ということか。(まぁヤツの満面の笑顔を見たときちょっぴり、ほんのちょっぴり、ミジンコほどの気持ち、かわいいと思ってしまったけれど)あれ?そういやヤツはなんで俺を心中相手に選んだんだろう?聞いてみたいけどもう口が回らない。苦しくはないけど、体中から力が抜けて動けないや。不覚にも最後の最後にヤツのことを考えながら永遠の眠りに就こうとする俺の耳に心を読んだかのようなヤツの声が耳に入る。そして俺は近づいて来るヤツの無駄に整った顔を視界に確認し、妙に納得した気持ちで意識を手放した。