ただひたすらに前を向く彼女は僕の方を見ようとしない。縋るように繰り返し名前を呼んでも、彼女はもう振り向いてはくれない。冷たくなってしまったであろう彼女の小さな手を僕の両手で暖めてあげたいと思っても、もうそれは叶わない。彼女の背中は僕のすべてを拒絶している。伸ばしかけた手を握り締めてただどうしようもなく吐いた言葉は彼女の耳には届かない。だって一度として僕の顔を見ないまま彼女は静かに一歩を踏み出し始めてしまったから。行かないで、とも言えないまま繰り返し繰り返し馬鹿みたいに名前を呼ぶ僕を、彼女はどう思っているだろうか。潤んで揺らぐ視界では震える彼女の肩と灰色に濁った空だけが映し出される。せめてあの角を曲がるまでは、

(君の名前を呼ばせてくれよ)