今日はバレンタインデー。一部ではお菓子会社の陰謀だとかなんとか囁かれる日。だけどそんなの関係ないの!女の子にとって特別な日ってことに変わりはないから。だって見てみてよ。街中には甘い匂いがただよって、女の子達はみんなどこか浮かれてる。かくいうあたしも例に漏れずルンルン気分でハイテンション。ああ、愛しの彼は受け取ってくれるだろうか?あたしの愛のこもったチョコレート。チョコをちょこっとプレゼントするつもりが、あたし自身がプレゼントになっちゃったりなんかして!!ああダメよ、ダメ。こういうことは段階を踏んでから・・。って、ダメよダメダメ落ち着けあたし!もうすぐ彼が来るんだから妄想してる場合じゃないわ。正常心正常心せ・・・ってキターーーー!?!?!やばいよ本物来ちゃったよ!ああ収まれ心拍数、鳴り止め鼓動、でも止まるな心臓。さぁ、いざゆかん!

「あの、これバレンタインのチョコレートです!受け取ってください!!」
「アリガトウ」
グシャッ

・・・・・・・・・・・グシャ?グシャって何?何かの擬音?え、なんで彼の手の中であたしのチョコが潰れてるの?握力強すぎて握り潰しちゃったとかそんな感じ?ああ、それにしてもなんて卑猥な光景なんだろう。彼のきれいな手からチョコがぼたぼたと垂れている。あーもったいない!どうせならホワイトチョコにしておけばよかったわ。そうすれば、彼のせ・・

「気持ち悪いんだよ、このクソ女。待ち伏せなんかしやがって・・ストーカーかよ」
「あいにくオレにはかわいい恋人がいてなぁ、てめぇなんかに付き合ってる暇はねぇんだよ」
「わかったら二度とオレに近づくんじ・・・・・ぐはっ」

・・・あ、あれ?ねぇ、どうして?どうしてあたしの手にナイフなんか握られてるの。どうして彼は血にまみれて倒れているの。どうしてナイフが赤く染まっているの。どうして彼は起き上がらないの。どうして人が悲鳴をあげているの。ねぇ、どうして?ああ、わかった!これは彼なりのサプライズなんだ!あたしの手にいつの間にか握られたナイフも血まみれで倒れる彼もいまだに叫んでる女の人も全部ぜーんぶ彼なりの演出なのね。あたしが必ずバレンタインを渡しに来るだろうと踏んで、驚かせようとしてくれたのね。え?っていうことはあたしの気持ちは彼にバレていたってこと?!ああ、やだやだ恥ずかしい!!でもあたしの気持ちを知りながらこんなことしてくれるってことはもしかしてあたしたち両思いってこと?!!キャーどうしよう?!?!あまりの嬉しさに失神しそうよ!ってちょっと何よ、やめてよおじさん!人が嬉しさに浸ってる時にまさかの痴漢?ふざけないでよ!

「君を殺人未遂の現行犯で逮捕する」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

ちょ、ちょっと待ってよ真面目に意味がわからない!これは彼のサプライズ、演出でしょ?なんで本物の救急車とパトカーなんて来てるの?これも彼なりの演出なの?この強面のおじさんも?何もかもすべて?じゃあ一体いつネタバラしが来るの?あーわからないわからないわからないわかりたくもない。そうよ、これは彼の演出、サプライズ!いつかきっと彼が笑って出てきてくれるの。そして驚いた?って言って抱きしめてくれるのよね!でも掴まれた腕が、人々の視線がやけに痛いのよ。あまりにリアルすぎて怖いくらい。ねぇ、もう十分驚いたから早く出てきて。
心の底に沈む暗い澱みと手にこびりついてる鮮やかな赤を拭い取って。・・あたしが現実に気がついてしまう前に。


2月14日の悲劇