その声に振り返ってはいけない。切なく名前を呼ぶ声に胸が締め付けられても。

呼吸がしづらいのはきつくしめたマフラーのせい。地面が濡れているのは降りだした雨のせい。耳に届いたかすかな言葉はただの幻聴。

踏み出した足を止めてはいけない。たとえ背後から泣きじゃくる声が聞こえても。

せめてあの角を曲がるまでは、

(漏れそうな嗚咽を押し殺して)